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アノミー(無規範)への屈伏を許す 「緊急事態条項なし」の敗戦憲法③

2020-09-19

読売によれば、スペインには憲法と非常事態に関する法律があり、イタリアには首相が議会の承認なしで首相令を出し、個人の権利を制限する措置を取ることができ、英国には国家緊急事態法に基づいて女王が宣言できる。宣言すれば政府は議会を通さず、法律を作るなどの権限を持つ。ドイツでは戦時に限らず自然災害や重大な事故などが発生した場合に、国民の行動の制限を可能にする法律を整備している。

さらに詳しくみてみよう。日本と同じ2次大戦の敗戦国であるドイツ(西ドイツ)には当初、憲法に緊急事態条項がなかった。連合国が作ることを禁じたからだ。それでドイツ国民は1968年に基本法(憲法)大改正いわゆる「ボン基本法」を制定し、対外的、対内的および災害による非常事態への対処のために28条項もの新設、削除、変更を加えた。

1949年の基本法原本、署名部分  写真はWikipediaより

基本法は緊急事態を「防衛事態」「緊迫事態」「同盟事態」、憲法上の緊急事態」「災害事態」に分類し、それぞれについて定義や確定の要件、効果等を規定。例えば、ナチス独裁の苦い経験をもとに緊急事態下でも立法機能を休止させず、平時において国会議員の中から有事用「合同委員会」議員(48人)を選任し、緊急事態になれば地下壕で備える。

また「伝染病の危険、自然災害もしくは重大な災害事故に対処するために必要な場合、または青少年を非行化から守り、もしくは犯罪行為を防止するために必要な場合にのみ、これを制限することができる」(11条)といった規定も設けている。

ちなみに世界で最初に緊急事態の法整備を行ったのはフランスで18世紀末のことだ。現在はフランス第5共和国憲法第16条に大統領の非常事態措置権、第36条に戒厳令を明記し、強い権限を行政府に与えている。イギリスには成文憲法がないが、”マーシャルルール”で緊急事態には政府に権限を与え、そうした規定を「1964年緊急権法」に定めた。アメリカ憲法は第2条2節に大統領が軍隊の総指揮官と規定、同3節に非常時の議会召集権を与え、非常時に大統領が力を発揮できるようにしている。

フランス共和国憲法  写真はWikipediaより

このような緊急事態の規定は民主主義国では常識である。人権とも矛盾しない。市民の自由や権利を守るための「国際人権規約」(市民的及び政治的権利に関するB規約)は第4条に、国家は緊急事態に「必要な限度において、この規約に基づく義務に違反する措置をとることができる」と規定している。人権をも守るために緊急事態措置が必要なのだ。

News Letter令和2年7月号より

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